石のプロポーション(その様々な部分のサイズおよび角度間の関係)はシェープやスタイルほど明瞭ではありませんが、全体的美しさに関してはより重要となります。
それはプロポーションが何にも増して、石の光学的潜在性をどの程度発揮させるかを決めるからです。
ダイヤモンドのプロポーションの分析で考慮する特に重要な要素は以下の通りです。
●テーブルサイズ
●クラウン角度
●ガードルの厚さ
●パビリオンの深さのパーセンテージ
●キューレットサイズ
●シンメトリー(対称性)
●ガードル輪郭(ファンシーシェープのみ)
●長さと幅の比率(ファンシーシェープのみ)
テーブルサイズとは石のサイズに対するテーブルのサイズです。
通常ガードル直径の最小と最大寸法を測定し、テーブル直径のコーナーからコーナーまでを4箇所測定して、テーブル直径の最大値をガードル直径の平均値で割ってその結果に100をかけます。
例:ラウンドの寸法が5.32/5.39/3.08mmである最大テーブルの直径が3.19mmの場合、
平均直径=(5.32+5.39)÷2=10.71÷2=5.355、これを四捨五入して5.36
テーブルのパーセンテージ=(3.19÷5.36)×100=0.5951492×100=59.51492、これを四捨五入して60%
注:テーブルのパーセンテージは常に四捨五入して整数パーセントにします。
テーブルのパーセンテージの測定および計算はプロポーションの判定を学ぶ場合、実際に重要であり、テーブルの寸法は個々の石の識別に役立つこともあります。
一般にプロポーションの測定値は識別特徴の完全性を高め、訓練を受けたジェモロジストはこれを読むだけで石の外観の見当がつきます。
ファンシーシェープのテーブルのパーセンテージを計算するには、テーブルの幅を石の幅で割り、その結果に100をかけます。
既にファンシーシェープの幅は石の縦に直角の最も長い方向であると学びましたが、テーブルの幅も石の幅と同じ方向で測定します。
テーブルのパーセンテージ=(2.62÷3.90)×100=0.6717948×100=67.17948、これを四捨五入して67%
回転式ダイヤモンドソーの発明以前は、テーブルのパーセンテージの平均は40ないし50%と低いものでありました。
その原因は主として、カッターが各結晶から加工しあげした石を1個だけ削りだしたため、テーブルが小さいほど重量歩留りがよかったためです。
20世紀になってソーが普及すると、カッターは形の良好な原石1個から石が2個とれ、テーブルを大きくカッティングすれば、歩留りが高いことを発見しました。
ある時期、テーブルは広がりましたが、テーブルが大きすぎるとダイヤモンドのシンチレーションのバランスをくずします。
テーブルの反射によるざらつきが他のファセットからの反射を圧倒するのです。
テーブルが大きいと分散も減少します。
結局、テーブルサイズは美しさと経済性との妥協を反映する範囲に落ち着きました。
現在、大半のダイヤモンドのテーブルサイズは55から65%の間ですが、この範囲外の石を見かけることも確かにあります。
これは大きい相違のように見えますが、1カラットの石ではテーブル寸法の差は1mm以下です。
クラウン角度(ベゼルファセットとガードル平面の間の角度)は測定できますが、これも通常は目測します。
大半のダイヤモンドはクラウン角度が30と35度の間です。30度より浅い場合、石は十分輝いていますがファイアーの減少が顕著です。
浅いクラウン角度は薄い原石からカットした石に多く見られ、このような原石ではカッターがガードル直径を最大にとり(従ってフェースアップサイズが最大となります)、最大の歩留りを試みたためです。
その結果、クラウン角度の浅い石はテーブルのパーセンテージが大きく、ガードルが薄く、パビリオン角度が浅くなる傾向があります。
ガードルは石留めをする縁です。
これは石を安全にセットできるだけの厚みが必要です。
薄すぎると脆くて欠けやすく、厚すぎると魅力を失い石留めが困難となることがあります。
厚いガードルはしばしば石に大きく不明瞭なグレーの反射を生じ、汚れや垢がたまることが度々あり、特にこのような場合にこの反射が生じます。
厚いガードルは通常、比較的小さな石やファンシーシェープに見られます。
ガードルは石の周辺が最大となる位置にあるので、厚いガードルは大幅な重量増加を意味しています。
訓練されたジュエラーは重量推定公式にガードル厚さの修正係数を入れています。
ガードルの厚さは通常目で判断します。
実測し、ガードル直径のパーセンテージで表示できますが、パーセンテージと実際の厚さとの関係は石のサイズに左右されます。
例えばガードルの厚さが2%の場合、6グレイナーの石では厚く見え、10ポインターの石では薄く見えます。
ステップカットではガードルは石の周囲全体で厚さが一定しているべきです。
ラウンド、オーバル、もしくはクッションシェープのブリリアントでは、メインの対とガードルファセットの間でわずかに波型となり、向かい合うメインの先端と先端の間で厚くなります。
ハートはクレフトでガードルが厚くなっています。
ガードルの厚さのわずかな変化は通常無視しますが、かなりの差は石留めの時に問題を生じることがあります。
ダイヤモンドのブリリアンスは主として、ガードル直径のパーセンテージで表現したガードル面からキューレットまでの距離で、ジェモロジストがパビリオン深さのパーセンテージと呼んでいるもので決定されます。
カッターはパビリオンメインとガードル平面間の角度であるパビリオン角度を判断するが、結果は同じです。
角度が大きいほど深さのパーセンテージが大きくなります。
ここでもパビリオン深さのパーセンテージは測定して計算できますが簡単に目測できます。
大半の専門家は、ダイヤモンドに関してはパビリオンの深さが43と44%の間(もしくはパビリオン角度が約41度)が最適であるとの意見に賛成です。他の宝石材では最適のパビリオン角度と深さはこれとは異なっています。
クラウン角度やテーブルサイズもブリリアンスに影響するので、パビリオンの深さはわずかに変化しても大丈夫ですが、大きく変化させることはできません。
パビリオンの深さが40%前後のダイヤモンドでは、石をフェースアップで見ると、特に石を少し傾けた場合、しばしばテーブルを通してガードルの一部の反射像が見えます。
パビリオンが38ないし39%より浅いラウンドブリリアントではガードルの反射像がテーブルの真下に醜い輪(この効果は、これから連想されるフィッシュアイという名前がついています)ができ、石が鈍く平坦に見えます。
テーブルが、約67%より大きい場合はパビリオンがこれよりやや深目でもフィッシュアイが現れます。
これに対し、パビリオンが45ないし46%より深い石は中央が暗く見え始めます。
48%より深い石では本当に暗く、光る釘の頭に似ているのでネイルヘッドと呼ばれています。
これを正しいバランスで見るには、フィッシュアイのある(浅すぎる)石のパビリオン角度の差は約5度であることを知っておくとよいでしょう。
又パビリオンの深さのパーセンテージ差が10%と言うと大変な相違に聞こえますが、1カラットの石の場合、2分の1ミリよりやや多いだけです。
ラウンドダイヤモンドは対称形なのでまわりは全てパビリオン角度が等しくなっています。
ラウンドが最も光をむらなく見せるのはこのためです。
ファンシーシェープは位置によって長さが異なるので、パビリオン角度もそれにつれて変化します。
カッターは、多くのファンシーシェープで細長いキューレットやキールラインをカットして補っていますが、パビリオン角度の変化は必然的に光の現れ方を変化させます。
最も一般的な現象のひとつは多くのマーキース、オーバル、およびペアーに見られる暗いボータイです。
前述したようにファセットの数や配置をかえることによりボータイを明るくしたり消すことさえ可能です。
一部のエメラルドカットには厚いガードルと同様に歩留りをよくする意図のパビリオンのふくらみ(バルジ)と呼ばれるものが見られます。
エメラルドカットで顕著なファセットの反射を生じさせるには、ステップ間も角度を大きくする必要はなく、数度でよいでしょう。
このわずかな角度により、石を側面から見るとパビリオンがわずかに弓なりになります。
この角度を大きくし、したがって弓形すなわちふくらみをおおきくすることにより、カッターは歩留りをかなり高くすることができます。
しかし、これは度々石のブリリアンスを減少させ、ふくらみが大きいと石留めが困難になります。
ふくらみは、通常深いパビリオンと共に見られることが多くなります。
シンメトリー(対称性)とは石の対応する部分同士の同等性であり、ブリリアンス、ファイアー、およシンチレーションをむらなく発揮するのに重要となります。
ラウンドで特に一般的なシンメトリーの変化には以下のようなものがあります。
●配列不良のファセット
●先端が適切に合っていないファセット
●形からくずれたファセット
●中央からずれたテーブルおよびキューレット
●円形でないガードル輪郭
●ガードル平面と平行でないテーブル
●波状ガードル(ガードル平面がそったレコードに似ている。)
ファンシーシェープはこれより種類が多いので、シンメトリーの変化の範囲も大きくなります。
ラウンドに見られるものの他に次のようなものがあります。
●エメラルドカットにおける不均一なコーナーおよび平行でない側面
●ペアー、マーキース、およびハートにおける不均一なローブ
●ハートに不均一なローブ
●ペアーおよびオーバルにおける不均一なショルダー
●中心からずれたまたは、曲がったキールライン
●ペアーおよびハートにおける高すぎるもしくは低すぎるキューレット
大半のダイヤモンドには、ある程度シンメトリーの変化があります。
完全に円形なダイヤモンド、ガードル平面に完全に平行なテーブル、および対応するものとサイズと形状が正確に等しいコーナー、ウィング、ローブ、もしくはショルダーはありません。
このような理由から、10倍で明瞭でない限り、もしくは場合によって肉眼で見えない限り、シンメトリーの特徴は通常プロポーションの変化でななく、軽度のフィニッシュ特徴とみなされています。
ラウンドは円形なので、その形状もしくはガードル輪郭の相対的魅力を判断する必要はありません。
しかしファンシーシェープでは、あるシェープの石すべてが同様に魅力的とはなっていません。
テーブルサイズ、クラウン角度、およびパビリオンの深さがこれと関係あるのは言うまでもないですが、シェープのフェースアップ輪郭がいかに好ましいかによっても左右されます。
石の実用(石留めの簡単さ、および着用時の破損の可能性)を低下させる輪郭もあります。
しかし、ここでは大半のプロポーション特徴と異なりその魅力のみを考察します。
完全に目で見て判断します。
この特徴はシェープによって異なります。
例えば長方形のステップカットは美的かつ実用的理由から隅切りが必要です。
これによって静的な長方形に動的な性質が生じます。
またこれがないと石がはるかに脆くなって欠け易く、コーナーは安全な爪留め部分となっています。
コーナーが小さすぎると石が奇妙に見え、魅力的な石留めが困難となります。
通常バゲットは隅切りのない長方形のステップカットの唯一のものです。
ペアーのヘッドおよびオーバルのエンドは好ましい丸みをおびているべきです。
ヘッドが平坦であると歩留りがよくなり、時には十分、魅力的なシールド(盾形)もしくはクッションシェープとなることがありますが、通常は石をずんぐりして見せるだけとなります。
ペアーおよびオーバルのショルダーは穏やかに、しかし明瞭かつ均等に丸みをおびているべきです。
ショルダーが角ばると歩留りはよくなりますがぺアーは三角形に、オーバルはずんぐりして見えます。
同様に、ハートのロープの曲線がゆがむと、つぶれたり上部が平坦になったように見えます。
マーキース、ペアー、オーバル、およびハートでは、サイドすなわち、ウィングが魅力的な弧に湾曲しているべきです。
平坦すぎると石は頭でっかち、もしくはベリーが広いように見え、ふくらみすぎると短かくずんぐりして見えます。
キューレットは石に最後につけるファセットで、元来は保護のためです。
大半のメレーおよび2分の1カラットまでのラウンドのほとんどがキューレットなしでカットされています。
先端が他のダイヤモンドと擦れ合って摩擦しない限り(これはテーブルの下の真中に微小な白い点として見えます)キューレットがなくても石の価値にほとんどもしくは全く影響を及ぼしません。
キューレットサイズは常に目測し、実測することはありません。
大半の人がミディアムキューレットと呼ぶものは10倍でテーブルを通して見えますが、肉眼では見えません。
大きいキューレットは拡大せずにテーブルを通して見え、非常に大きいキューレットは八角形の輪郭が見えます。
古いスタイルのカットは、今日の標準では巨大なキューレットのあるものが多くなります。
ファンシーシェープの魅力と売れ行きは、その長さと幅の比率によっても影響されます。
これは数字比で表現した長さと幅との関係で、長さを幅で割って計算します。
(スクエアエメラルドカットおよびクッションは言うまでもなく除外します。)
例:長さ=9.23mm、幅=6.35mmの場合
長さと幅の比率=(9.23÷6.35):1=1.45354、これを四捨五入して1.45:1
注:比率は四捨五入して少数点第2位まで出します。
ある種の長さと幅の比率は他の比率より視覚的かつ心理的に好まれます。
これはシェープによって異なりますが、長年、顧客の好みを観察して決定されたものです。
その人気は、ファンシーシェープの製造に標準ヘッドサイズがあるという事実で証明されています。
マーキースは1.75から2.25:1の長さと幅の比率が最も人気があり、オーバルは1.33から1.66:1の間が好まれます。
エメラルドカット、長方形のクッション、およびペアーは1.50から1.75:1の長さと幅の比率が人気があります。
ハートは一般に1:1が最も魅力的と考えられています。
この範囲からわずかにずれた比率でも許容されていますが、かけ離れていると石が太くてずんぐり、もしくは細すぎて見えます。
例えば長く細い石は、特にポイントがある場合に破損しやすくなります。
長さと幅の比率が一般的でない石はオーダーメイドの枠を必要とすることもあります。